中国の笙(シェン)と日本の笙(しょう)が出会ったとき、一体どんな魔法が起こるでしょうか?ACCグランティのリ・リーチン(李俐錦)さん(ACC 2021)と清水チャートリーさん(ACC 2021)が、似ているようで違うこの2つの古楽器の謎に迫ります!

清水チャートリーさんが台湾に来る前の昨夏、彼はフランスの田舎でリーチンさんと偶然出会いました。

麒麟テレフォン

二人の思いがけない出会い以来、清水さんはリーチンさんとのコラボレーション・プロジェクト、シェンのための作曲を構想し始めました。
「麒麟テレフォン」は清水さんが台湾に渡航してから初めて取り組んだ「サイト・スペシフィック・ミュージック」です。この曲は、2024年2月に新北市にある採掘場跡地 "Mineless "での演奏を想定して作曲され、そこでミュージックビデオが撮影されました。「サイト・スペシフィック・ミュージック」とは、特定の場所の特性を音楽そのものに取り入れた曲のことを言います。このような音楽は、指定された環境で演奏されることを目的に作られますが、他の空間での演奏も可能です。

清水さんは作品を鑑賞するときに次のように想像してほしいと言いますーー「私たちはそれぞれ、自分のソーシャル・ネットワークにおける「人格 」を持っています。インスタグラムではゴージャスな有名人かもしれないし、ツイッターでは怒れる社会評論家、フェイスブックでは たくさんの友達を持つ人かもしれない、そして実生活ではそれらとはまったく違う人。この作品は、私たちがスマートフォンの中に存在する複数の「人格 」をどのように見つけ、調和させることができるかを描いているのです。」

これは清水さん手書きの『麒麟テレフォン』のスコアです。彼が紙の上でどのように構図を視覚化するか、その魅力的な方法を見ることができます。

リーチンさんは、清水さんとのコラボレーションの経験がとてつもなくユニークだったと語っていますーー「ユーモアのセンスを持った想像力豊かな作曲家とのコラボレーションは、思いがけないブレイクスルーに導いてくれることがあります。例えば、楽譜に手書きで「四つん這いになってシェンを奏でる」「大きな潤んだ瞳で無邪気にカメラを見つめて」などというト書きが書かれていたり。前者についてはコンクリートの床でなんとかうまくできましたが、後者については目が小さいので到底及ばず、私の視線はまるで復讐を企てているかのようでした。ワンショット撮影はとても楽しいコンセプトだと思います。今でも演劇的な指示に従いながら現代的な音楽を奏でるという発想について考えています。清水さんの台湾でのユニークな活動に対して賞賛を送ります。」

身体や中国楽器による制限を超えて
リーチンさんは台北チャイニーズオーケストラ(TCO)に招かれ、TCOが2024年3月に発行した『2024 SILK ROAD』第93号の「中国音楽の新たな展望」というセクションに、「身体や中国楽器による制限を超えて」という素晴らしいバイリンガル記事を寄稿しました。

ここ数年、リーチンさんは勇敢に台湾を飛び出し、シェンを携えてヨーロッパやアメリカを広く旅しています。彼女は、「単なる」中国伝統音楽という枠にとらわれず、中国の伝統楽器を演奏することは間違いなく可能であることを世界に示しました。記事の中で、ACCニューヨーク・フェローシップでの個人的な経験も語っています。是非この記事を読んでください!

リ・リーチン (ACC 2021) 
台湾の笙奏者、作曲家、即興演奏家、パフォーマーであり、近年は主に台湾とヨーロッパを行き来しながら、伝統的な楽器を現代の国際的な舞台芸術空間に融合させることに力を注いでいます。様々な音楽スタイル、身体の動き、即興的な構成など、様々な芸術形態に笙(シェン)を応用する能力で知られ、多様な公演に参加し、様々な役割を担うことで、彼女のような多面的な楽器奏者が体現できる範囲を積極的に広げています。
2023年6月に完了したニューヨーク・フェローシップでは、ニューヨークの豊かで多文化的かつジャンルを超えた舞台芸術を探求することに重点を置き、楽器演奏と舞台上のさまざまな身体動作の融合を観察・研究しながら、笙(シェン)を演奏することによって伝統的な要素を打破する方法を模索しました。

清水チャートリー (ACC 2021)
日本の作曲家、サウンドアーティスト、笙演奏家。空間や動きに関する幅広い媒体を介して作品を制作しています。 彼は「視点」をテーマに演奏し、緻密に設定されたライブカメラワークをインストゥルメンタル作品に取り込み、常識にとらわれない音楽のとらえかたを提案します。
昨年10月、6か月間の個人フェローシップのため台湾に渡航し、台湾中を旅する中で、シェン(中国の笙)の伝統的現代的音楽を調査研究し、さまざまな伝統音楽家、原住民音楽家、南管のオーケストラ、舞台芸術家との文化交流を行いました。 ACC台北は、台湾滞在中の清水さんのメンターとしてリーチンさんを指名しました。
 

ACC台湾ニュースレター 2024春号 Vol.26より