北京を拠点に活動するキュレーター兼ライターのジア・リさん(ACC2021)は、ソーシャリー・エンゲイジド・アートを専門としています。日本での3ヶ月間のACCフェローシップは、東京のような大都市や遠隔地の小さな町で、アートの展覧会やプロジェクトの多様性について考える機会となりました。
「私は、彼ら(日本人)の自然に対する深い感受性と親近感、無駄を省いた伝統的で調和のとれた生活様式を守ろうとする熱意、そして地域社会に対する帰属意識と忠誠心に深く心を動かされました。」フェローシップを通じて、ジアさんは、有意義な文化交流は、異なる文化や背景を持つ人々の間で「小さな瞬間から始まり、後に深い共感と感情的な結びつきにつながる」という印象を受けたと言います。
ジアさんはリサーチを通して、環境保護活動や市民参加、コミュニティに根ざした参加型実践、若者の自己組織化の関連性を見出しました。
ジアさんにとっての最大の成果のひとつとして、新しい人たちとの出会いが挙げられます。それは、東京の北部と西部に定着しつつある、25歳から45歳までの中国系ディアスポラのアーティスト・コミュニティでした。
彼らから、インディペンデント・アート・スペースを紹介してもらいましたが、その中のARTix3は、東京に住む3人の若い中国人女性が設立した、日本と中国の新進アーティストの活動を紹介しています。ジアさんは、中国の映像作家と、彼らの過去数十年にわたる記憶の政治性への取り組みについて、非公式のトークをするようオファーされました。 また、別のアーティスト・コレクティブとともに、中国人アーティスト、ユー・グオの短編映画の上映と、それに続くコミュニティ・カフェでの対話企画の開催に協力しました。
ACC日本オフィスの紹介で、ジアさんは東京の現代アートシーンの先駆者である中村政人さんなど、多くのアート関係者にもインタビューしました。中村さんは、村上隆さんや会田誠さんなどのアーティストとコラボレートし、1990年代を象徴する「ギンブラート」(Ginza art stroll*)のような伝説的なゲリラアートプロジェクトをキュレーション、企画した中心人物です。
*Ginza art strollは、エイドリアン・ファベルの造語。
中村さんは、社会経済が不安定だった1990年代に、地域コミュニティで多様なアートプロジェクトを提唱した経験、課題、動機を話してくれましたが、そこにジアさんは同時期の中国で展開されたアートプロジェクトとの類似点に気付きました。 中村さんから学んだことを自身の実践に生かしたいと考えているジアさんは、「中村さんは、アートを地域に根差した形で育み、人々の日常生活に浸透させ、変化させることの柔軟性を教えてくれました」と言っています。
ジアさんのフェローシップのもうひとつのハイライトは、九州・大分県にある人口12万人の温泉都市、別府を訪れたことです。別府は、街としての規模こそ大きくないものの、アーティスト・イン・レジデンスやアート・フェスティバルが開かれる等、芸術的コミュニティが活気に満ちています。
異なる視点を学ぶ手段としてアートを推進しているNPO BEPPU PROJECTに触発されて、ジアさんはさまざまな背景を持つアーティストたちと協力して、アジア圏のアーティストを対象とした、中国北西部の山岳地帯で小規模なアーティスト・イン・レジデンスを開始したいと構想しています。この地域は1950年代以降、壊滅的な天然資源の枯渇に見舞われています。 彼女はこのようなプロジェクトが、環境問題をめぐる有意義な異文化間の対話と理解の出発点となり、環境問題に対する批判的な洞察をもたらすことができると信じています。