ACCカルチュラル・カンバセーションズ 〜シリーズ:ニューノーマルにおけるアートを考える〜
第一回:コロナ禍と演劇 岩城京子 × 中村 茜 × 山本卓卓
ライブ配信日時:2020年6月26日(金) 18:00〜19:30
アーカイブ公開URL:https://youtu.be/tM9wykbvNGg
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<要約>
パフォーマンス学研究者の岩城京子氏司会のもと、山本卓卓(演出家、範宙遊泳)と中村茜(制作者、precog代表取締役)参加で、コロナ禍における演劇の可能性と困難についてのトークが行われた。
岩城は、西洋諸国に比べて日本では社会のシャットダウンに対するオンライン上の反応が遅れたことを指摘した。山本は、オンラインコンテンツを舞台芸術と根本的に別物と考えるアーティストの、ある種の「恥ずかしさ」によるのではないかと指摘する。はじめ演劇のメインストリームからは蔑視された1960年代から70年代の「アングラ演劇」運動の介入的な性質を挙げ、現代もアーティストがオンラインのプラットフォームを通した新しいコミュニケーションのモードに挑戦する機会なのではないかと述べた。
また山本は、多くの「オンライン演劇」の美的な側面が概して私たちの日常的なオンラインプラットフォームの利用に拠ったものであることを指摘し、より多くのアーティストがスクリーン自体をある種の「劇場空間」として捉え、その枠組みのなかでの身体性を探ることへの期待を述べた。オンラインのプラットフォームを通したパフォーマンスは劇場空間の「身体的な/物理的な」制約を越境する可能性を持っているという点について、登壇者三人の意見は合致を見ている。考えてみればこれは、現代のパフォーマンスにおいてしばしば実験が行われている領域でもある。
中村が代表を務めるprecogが制作を務めた、神里雄大の新作「カオカオクラブ.mp3」がコロナ禍によってフィジカルな上演からオンラインに移行を迫られたプロセスを紹介した。岩城と共にリミニ・プロトコルや、シルケ・ユイスマン&ハンナ・デレーレといった例を挙げ、「非接触型」のパフォーマンスの実験への関心が高まりを見せていることを指摘した。
中村と山本が、インターネットを通した創作の方法がパフォーマンスの創作、特に国際交流に永続的な影響を及ぼす可能性について議論した。「オンライン」で行われる想定のパフォーマンスはオンラインで創作が完結され得るし、特に国際共同ではリサーチ段階など、オンラインで代替可能な要素もあるが、インターネット上でのコミュニケーションでは欠落してしまう身体的な情報の存在は無視できないというのが二人の意見である。岩城が指摘するように、オンライン上のコミュニケーションではしばしば「スクリーン上にない」情報が無視されることになる。この不在こそがオンラインでのコミュニケーションをデザインするうえで重要だというのが三人の意見である。
次に、こうした状況下での文化支援が議論された。各種クラウドファンディング等、寄付制度に注目があつまる一方、「体制」に担保されたパトロネージュの仕組み以外が大衆的なサポートを得ることの難しさを山本が指摘する。
観客からの、これからの文化支援が取るべきかたちへの質問にこたえて、中村は日本の公的助成の「プロダクト」重視のあり方に対し、ドイツといった国のような「プロセス重視」の支援が充実すれば、アーティストが新しい領域に挑戦する基盤が形成されるだろうと期待を述べた。
最後に、岩城がベルトルト・ブレヒトの言葉を紹介する。ブレヒト曰く、アーティストは「古き良き」ものでなく「新しく悪い」ものに注目すべきである。山本がトークの初めに述べたように、舞台芸術コミュニティがこの「新しく悪い」状況は、逆手に取れば、アーティストは新たなクリエイティブな挑戦をし、舞台コミュニティ全体として観客とのエンゲージメントの新たなプラットフォームを形成し、行政は新しい支援の構造を導入するチャンスとなり得るのだ。
<参考リンク>
範宙遊泳 むこう側の演劇『バナナの花』(2020)【無料公開】
*山本卓卓さん(範宙遊泳主宰)のプロジェクト
https://www.hanchuyuei2017.com/mukougawa
チェルフィッチュ×金氏徹平『消しゴム畑』【無料公開】
*中村茜さんが代表をつとめるプリコグ制作のプロジェクト
*チェルフィッチュ主宰の岡田利規さんは2012年のACCのプロジェクトグランティです。 https://www.youtube.com/channel/UC2_xlx5RN0_PrkY0dF8w7pw
ライブ配信会場:山吹ファクトリー
主催:一般財団法人アジアン・カルチュラル・カウンシル日本財団
協力:山吹ファクトリー