>> PDFダウンロード「2024年度ACC日本グラントプログラム グラント受賞者発表」

 

アジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)は、1963年の設立以来、アジア諸国と米国における文化交流活動を通じた国際対話や理解、尊敬を深め、より調和のとれた平和な社会の創造に寄与しています。この使命の達成のため、アーティストや研究者、アートの専門家といった個人を対象とするフェローシップやその他の支援プログラムを行っております。

このたび2024年度ACC日本グラントプログラムのフェローシップ・グラントを以下のとおり決定いたしました。日本グラントプログラムにおいては、審査員の方々のお名前とともに各分野の代表による総評を掲載しています。



 

2024年度ACC日本グラントプログラム 審査員(敬称略)

<ビジュアルアート分野>
平野到(埼玉県立近代美術館 副館長)* 
鷲田めるろ(十和田市現代美術館 館長/東京藝術大学 准教授)
藪前知子(東京都現代美術館 学芸員) 

<パフォーミングアーツ分野>
内藤美奈子(東京芸術劇場 制作担当課長)*
柴田隆子(専修大学国際コミュニケーション学部 准教授)

<音楽分野>
柿沼敏江(京都市立芸術大学 名誉教授)

<文学分野>
清水晶子(東京大学大学院総合文化研究科 教授)

<建築分野>
五十嵐太郎(東北大学大学院工学研究科・工学部 教授)

*分野代表



 

2024年度ACC日本グラントプログラム
フェローシップ&グラント

 

◆ ニューヨーク・フェローシップ (米国・6ヶ月) ◆ 
 

毒山凡太朗 Bontaro DOKUYAMA
ビジュアルアート

明治維新後から第二次世界大戦を経て現在に至るまでの、アメリカ国内での日系移民の歴史と文化継承に焦点を当て、日本からの移民とその文化がアメリカ社会と美術に与えた影響とその現状を調査。
Blanchette Hooker Rockefeller (BHR) Memorial Fellow *1

 

半田颯哉 Souya HANDA
キュレーション

広島を巡る芸術的実践に多角的な視点を与えるマンハッタン計画の現地調査、ポストコロニアルをテーマに活動する在米アジア系アーティストのリサーチ、ならびに日系アーティストとの交流、ネットワークの構築。

 

 

關智子 SEKI Tomoko
芸術批評

アメリカ演劇の現地調査と情報収集を行い、ヨーロッパおよび⽇本の演劇との⽐較研究とそれぞれの特徴の把握と理解を深める。
ACC/Saison Foundation Fellow *2

 

 

鈴木みのり SUZUKI Minori
文学

アメリカの文学や芸術の実践、また文化コミュニティの調査を通して、マイノリティの物語がどのように語られてきたかをリサーチし、日本語における、新しいまたはオルタナティブな語りや文体の発見を目指す。

 

 

梅沢英樹 Hideki UMEZAWA
音楽

現代における「環境」という言葉の意味の変化を考察すると同時に、近代美術史やサウンドアートの文脈で環境的アプローチをとった作品群の調査やサウンドアートのアーカイブ等を調査。

 

 

八幡亜樹 Aki YAHATA
映画・ビデオ・写真

「ロードムービー」、「移民の歴史と現在」、「イメージ療法」、アメリカ原住民や移民コミュニティにおける「手食文化」の4つのキーワードを軸にリサーチを行い、新たな形式や構造による作品制作を目指す。
 

 

団体助成

ブリッジフォージアーツアンドエデュケーション Bridge for the Arts and Education 
演劇

日本とマレーシアの国際共同制作に伴い、アジアの古典芸能を通して『死と再生』について思考し、動き、音を出すワークショップを行い、その成果を共有する公開稽古、トークセッションを開催。
ACC/Saison Foundation Fellow *2


ドント・フォロー・ザ・ウィンド Don't Follow the Wind 
ビジュアルアート

アメリカのアーティストとキュレーターが来日して、「ドント・フォロー・ザ・ウィンド」の今後の展覧会に関する現地調査を実施すると同時に、避難住⺠との交流を行う。

 

 

◆ 個人フェローシップ ◆

以下は米国の審査員により選出され、ACC日本グラントプログラムが支援するフェローです。

アレクサンダー・デュボヴォイ Alexander DUBOVOY(米国→日本、4ヶ月)
音楽

日本の文化と音楽の理解を深めると同時に、郡上八幡市で米や酒の生産にまつわる労働歌の伝統を学び、酒造りの実践とフィールドレコーディングに基づいた新しい音楽の共同制作を計画。
 

 

マエダ・キミ Kimi MAEDA(米国→日本、6ヶ月)
演劇

島根県の古民家を舞台にしたプロジェクト『一憶ハウス』の一環として、この家に関するリサーチとオーラルヒストリーの収集を行い、インスタレーションの設計と製作を開始。
 

 

コト・マエサカ Koto MAESAKA(米国→日本、2ヶ月)
音楽

アイヌ文化における音楽と舞踊の役割、岩手県の和太鼓の文化的意義や盛岡さんさ踊りとのつながり、徳島の阿波おどりの歴史的発展や各動作の文化的意義、地域社会に与えた影響を調査。

 

 

*1「Blanchette Hooker Rockefeller (BHR) Memorial Fellow」は、ビジュアルアート分野において特に高い評価を得たグランティに授与しています。
*2「ACC/Saison Foundation Fellow」は、公益財団法人セゾン文化財団による助成金が充当される活動に授与しています。



 

審査員代表より選考に関して

ビジュアルアート 総評

海外に赴き異なる文化に触れることが、芸術分野にいかに大きな刺激や飛躍をもたらしてきたかは、過去の歴史を見れば明らかである。しかし、世界中の情勢や芸術動向をリアルタイムで追うことができる現在においては、海外で活動する際に求めるべきものは自ずと変わってきている。美術館や画廊を見て回り、美術関係者を訪問し見聞を拡げるにとどまらず、滞在先で人的、社会的なネットワークを築き、その環境に身を置くことによって初めて実感し得る「何か」を掴み取ることが肝要になるはずだ。

今回、ACCの審査員の機会をいただくことになったが、全体の印象をまず挙げておくと、昨今ひとつの潮流になっている、リサーチ・ベースのプロジェクトの実現に向けた応募が多かった点である。アーティスト、リサーチャー、キュレーター、クリティックの視点が融合するリサーチ・ベースのプロジェクトは、因習的な制作やキュレーションといった概念とは異なる新たなアウトプットを期待できるであろう。多数の応募からは、こういったプロジェクトの実現のために、ACCのグラントが渇望されている様子がひしひしと伝わってきた。

応募は全体的にハイレベルで甲乙つけがたい、競り合いの状況であったといえる。申請内容に加え、個人/団体といった申請者のカテゴリーや、特定の世代に偏らない選考などに配慮をしつつ、最終的には次のとおり個人申請3名と団体申請1件、合計4件を選出した。

社会や歴史の趨勢に埋もれてしまうものをアイロニカルな手法で作品化してきた毒山凡太郎は、アメリカの日系移民の歴史と文化を各都市でリサーチする申請内容が、これまでのキャリアを発展し得るものとして評価された。医療従事者として臨床経験も有する八幡亜樹は、ロードムービー/移動、イメージ療法、手食文化についてリサーチを行い、美術、医療、文化人類学を横断するようなユニークな視点を見出そうとする試みが目を引いた。作家、キュレーター、研究者として活動し、日本の社会的構造をクリティカルな視点から問い直す半田颯哉は、自らが育った広島の原爆について、加害/被害という2項対立に回収されない論点から見直し、マンハッタン計画等をリサーチする申請内容が注目された。また、団体申請については、福島第一原発事故によって生じた帰還困難区域内において、避難住民の協力を得て、2015年に開幕した国際的なプロジェクト「Don't Follow the Wind」が選出された。今後の展覧会オープンの準備のため、アメリカの美術関係者との交流を図ることが申請目的と記されている。

世界情勢が混迷を深める中、ACCがミッションとして掲げる異文化間の交流や対話は、その重要性をより一層増している。こういう時代であるからこそ成し得るプロジェクトが、今回のグラントを通して実現されることを期待している。

ビジュアルアート分野審査員代表
平野到(埼玉県立近代美術館 副館長)

 


 

パフォーミングアーツ 総評

今年のパフォーミングアーツ分野は、自ら実演を行うアーティストから、演出・翻訳・制作に携わる人まで、古典芸能から現代演劇、ダンス、シルクまで、さまざまな創造に多様な立場で関わる方々からの申請があり、内容も充実していた。ある程度の実績をもつ方々が、これまでの活動を通じて関わったアメリカ・NYの舞台芸術に触発され、このタイミングで自らのキャリアを新たに構築しようという意気込みが感じられる内容で応募していたことも印象的だった。

今回、NYフェローとして採択された關智子氏は、翻訳家として数々の優れた戯曲の日本での上演を支えてきた。またアカデミズムの立場から英語圏の戯曲を分析し、その仕事ぶりは既に高く評価されている。主に英国系の戯曲に関わることの多かった氏によれば、アメリカ現代演劇の日本への紹介は商業的に成功を収めたものに偏っている。NYにおける劇作家育成・キャリア形成プロセス、戯曲がいかに実演され出版などのアーカイブに結びついているかを調査するという氏の掲げた目的は、日米双方の演劇界に良き示唆を与えうると評価された。多忙な氏が、まとまった期間、NYに滞在できるタイミングであったことも採択のファクターであった。このフェローシップを通じて米国現代演劇の体系的な分析と日本への紹介が促進されることを期待したい。

団体助成を受けるブリッジフォージアーツアンドエジュケーションは息長く国際的な協働を続ける団体で、その活動の独自性と質の高さから、ACCは継続的に見守り、助成している。今回の応募は2025年の「オデュッセイア」上演を見据えて、団体主宰の小池博史氏はじめ日本・マレーシアのアーティストが東京で5回にわたるワークショップを行い、その成果を公開稽古やトークで共有しようというものだ。実現性が高く、ACCのミッションに沿う事業であることにより採択された。

私自身が1992年にACCのグラントを受けてNYに滞在し、見聞を広げ、現在に至るまで舞台芸術に関わることができたので、その恩返しの気持ちで今回初めて審査をお引き受けした。私の応募当時とは比較にならないほど、個々のアーティストがしっかりと自らの目指す活動の意義を言語化し、プレゼンしていることには頭が下がった。パンデミックや各地での戦争など大きな問題が世界を分断する中、アーティストという小さな個人は社会に何を果たせるのか。そのことを問いながら審査に当たらせて頂いた。

パフォーミングアーツ分野審査員代表
内藤美奈子(東京芸術劇場 制作担当課長)

 


 

音楽 総評

今回、音楽分野から1名を選ばせていただきました。音楽分野の応募の全体的傾向としては、環境、ジェンダー、純正律など、近年浮かび上がってきている様々な問題への関心を窺わせる内容で、応募者のレヴェルの高さが窺われました。そうしたなかで、現代アートとの領域横断的な活動を活発にされている梅沢英樹さんが最終的に残りました。人と環境の関係性をテーマにして録音と撮影を中心としたフィールドワークを展開しているアーティストで、「音楽」という枠を越えた活動が注目されます。アコースティックな音響彫刻から電子音まで幅広い関心を持ち、すでにフランスなどでも活動されていますが、ニューヨークのアートシーンを知ることによって、さらに活発な活動が展開されることと思います。

今回はじめてACCの審査に関わらせていただきましたが、かつてACCの援助でニューヨークに滞在させていただき、最先端のアートシーンを体験させていたことが、どれほどその後の活動にプラスになったかが思い出されました。この機会をアーティストの皆さんにぜひとも生かしていただきたいという思いを強くいたしました。今回各分野から選ばれたグランティの今後の活動を期待しております。

音楽分野審査員代表
柿沼敏江(京都市立芸術大学 名誉教授)

 


 

文学 総評

今回初めてACCグラントの審査員を務めたが、昨年度の総評にもあったように、せっかくのグラントなのだから文学分野の応募がもう少し活発でも良いのに、との印象を持った。もちろん、日本語という言語を主に用いた創作や批評あるいは研究にとって、他言語でのコミュニケーションが介在しがちな国際交流は、応募者側の強みを最大限に活かしにくく、しかもその直接の効果を想像しにくい、ということもあるかもしれない。とはいえ、単なる「国際交流」にとどまらず、異なる言語的・文化的・社会経済的背景をもつ人々との意見交換や協働を含む様々な文化交流を可能にする比較的自由度の高いグラントなのだから、ぜひ利用してほしいと思う。

選出された鈴木みのり氏の応募内容は、まさにその意味で、グラントの特性を活かしたものであった。鈴木氏は、小説や批評の執筆、映画やテレビドラマの監修など、フェミニズムやクィアの観点に立つ幅広い仕事をしてきた。トランスナショナルな反ジェンダー運動が高まりつつある現在、その渦中にある米国のクィア/トランスのBIPOC文化コミュニティの活動を調査し、意見交換とネットワーク形成を行うという氏の申請計画は、日本国内/日本語文化圏内を超えた交流の必要性と意義をこの上なく明確に提示すると同時に、タイミングとしても極めて時宜を得たものである。鈴木氏がこの機会を十分に活かし、日本語圏でのフェミニスト/クィアの批評やライティングをより一層豊穣にしていく力となってくださることを期待している。

文学分野審査員代表
清水晶子(東京大学大学院総合文化研究科 教授)

 


 

助成:

公益財団法人セゾン文化財団

 

 

公益社団法人企業メセナ協議会 社会創造アーツファンド


 

一般財団法人アジアン・カルチュラル・カウンシル (ACC) 日本財団

104-0031 東京都中央区京橋三丁目12-7 京橋山本ビル4F
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Email: acc@accjpn.org
Web (日本語): http://asianculturalcouncil.org/ja/