>> PDFダウンロード「2023年度ACC日本グラントプログラム フェローシップ・グラント 決定」


アジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)は、1963年の設立以来、アジア諸国と米国における文化交流活動を通じた国際対話や理解、尊敬を深め、より調和のとれた平和な社会の創造に寄与しています。この使命の達成のため、アーティストや研究者、アートの専門家といった個人を対象とするフェローシップやその他の支援プログラムを行っております。

このたび2023年度ACC日本グラントプログラムのフェローシップ・グラントが決定いたしましたことをご報告いたします。
日本グラントプログラムにおいては、審査員の方々のお名前とともに分野ごとの代表による総評を掲載しています。
 





2023年度ACC日本グラントプログラム 審査員(敬称略)

ビジュアルアート部門
*藪前知子(東京都美術館 学芸員)
近藤健一(森美術館 シニア・キュレーター)
鈴木幸太(ポーラ美術館 学芸員) 

パフォーミングアーツ部門
*柴田隆子(専修大学国際コミュニケーション学部准教授)
高橋宏幸(桐朋学園芸術短期大学演劇専攻准教授)

音楽 及び 文学部門
*小沼純一(早稲田大学文学学術院教授)

*分野別審査員代表





2023年度ACC日本グラントプログラム
フェローシップ&グラント


◆ ニューヨーク・フェローシップ – New York Fellowship  (米国・ニューヨーク 6ヶ月) ◆

ナイル・ケティング Nile Koetting
ビジュアルアート部門

第一次大戦後のニューヨークを中心とした「反芸術」の中で生まれた領域横断的な表現を模索する動きについて、また、その現代に至るまでの軌跡と可能性を調査。
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やんツー(山口崇洋) yang02 (Takahiro Yamaguchi)
ビジュアルアート部門

今日の「メディアアート」の起源としてのE.A.T.(Experiments in Arts and Technology)の活動についての調査、及び、テクノロジーの問題を扱うNYのアーティスト達との交流。
Blanchette Hooker Rockefeller Memorial Fellow
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◆ 個人フェローシップ – Individual Fellowship ◆

福原冠、三橋俊平 Kan Fukuhara and Shumpei Mitsuhashi
パフォーミングアーツ部門(演劇及びダンス)

米国にて2ヶ月間のコラボレーターを伴う個人フェローシップ。NYにある様々な「稽古場」においてどのような創作、ワークショップ、レッスン、授業が行われているのか、稽古における俳優とダンサーのあり方についての調査。
ACC Saison Foundation Fellow *
Left: Fukuhara, Right: Mitsuhashi (Photo by Manaho Kaneko)
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ユニ・ホン・シャープ Yuni Hong Charpe
パフォーミングアーツ部門/ビジュアルアート部門

韓国にて2ヶ月間の個人フェローシップ。翻訳という形式の持つ暴力性/ホスピタリティーに着目し、日本語と韓国語がどのように翻訳されあってきたかを調査。また「植民地主義的暴力とそのトラウマを癒すこと」をテーマに韓国で社会的・文化的に「癒し」がどう表象されてきたかを調査。翻訳・通訳者の平野暁人氏が調査に一部参加協力。
ACC Saison Foundation Fellow *
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小林勇輝 Yuki Kobayashi
ビジュアルアート部門

香港にて6ヶ月間の個人フェローシップ。中国武術「詠春拳」を題材にした長期プロジェクトを発展させるための調査、及び、香港を拠点に活動するパフォーマンスアーティストとの交流。
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森 円花 Madoka Mori
音楽部門

米国にて4ヶ月間の個人フェローシップ。ニューヨークにおいて、異文化交流による自身の新しい音楽語法の発見、また、多様な芸術とコンテンポラリーミュージックの革新的なコラボレーションの可能性の追求。
Photo: Shigeto Imura
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シムラブロス (志村諭佳、志村健太郎) SHIMURAbros (Yuka and Kentaro Shimura)
ビジュアルアート部門(映画/ビデオ/写真)

米国にて2ヶ月間の個人フェローシップ。日本国憲法の人権条項作成に寄与したベアテ・シロタ・ゴードンについて、彼女が若かりし頃に住んでいた米国、サンフランシスコにおいて調査を行う。
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◆ 団体助成 – Grants to Institutions ◆

一般社団法人オフィスアルブ OFFICE ALB 
パフォーミングアーツ部門(ダンス)

交流と国際協働制作のため、フィリピン、インド、インドネシアのアーティストと協働しフィールドワークやワークショップを実施。
ACC Saison Foundation Fellow *
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*「ACC Saison Foundation Fellow」は、公益財団法人セゾン文化財団による助成金が充当される活動に授与しています。
 





審査員代表より選考に関して


ビジュアルアート 総評

ACCから定期的に送られてくる、助成経験者の近況を伝えるニュースレターからは常に、いかにこの賞が多くの作家たちの未来のキャリアを助け、現在のシーンに影響を与えているかが伝わってくる。マーケット主導の評価や、巨大資本による先導が支配的になる一方のアートの世界で、それらに関わらない発展の機会をアーティストにもたらすACCへの期待は大きい。

私は今年初めて審査員に加わったが、日本に限らず、多様な文化的アイデンティティを持つ作家たちが応募していることがまず印象に残った。また、すでに一定の発表の機会のあるミッドキャリアの作家たちが、次のステップのために応募するケースも目立った。これはこの助成の意義ある使い方であると思う一方で、芸術祭などの興隆がひと段落し、コロナ禍も重なってアーティストを支えるインフラが弱まっている中での閉塞感も感じさせられた。

今回のビジュアルアート部門での選出は、この状況も反映し、ある程度これまで美術館等での発表の機会を得てきた作家が中心となっている。しかしそれだけでなく、個人の仕事を超えた日本のアートの環境に対する広い影響が期待される作家が評価を得たといえる。やんツーは、新しいテクノロジーの状況に応答しながら、その未来を、過去──諸ジャンルとテクノロジーがアートと未分化であった時代──に戻り、そこからやり直そうとする歴史感覚が注目された。ナイル・ケティングも、その先進的な活動に合わせて、日本のアートを支えるインフラの脆弱さに対する問題意識や、新しい活動領域を支える環境への興味が評価された。小林勇輝も、アートとパフォーマンスの中間領域という、日本では活動の場がまだ未整備な分野で活動をしてきた作家であり、そのユニークなリサーチ内容に合わせ、各種のプラットフォームが構築されつつある地での経験が今後のキャリアに与える影響も含めて選出された。SHIMURAbrosとして活動する志村諭佳の申請は、はっきりと目的が絞られたケースであったが、キャリアの初期から持ち続けてきた映像というメディアへの興味が、他者の物語を共有しより良い世界を作るためのものとしてアップデートされており、ミッドキャリアの作家への支援としてふさわしいものと評価された。

結果として、他者との出会いと観察を通して自己を編み直すというACCの意義を、現時点において最も体現できると考えられる作家たちの選出となった。惜しくも選に漏れた応募者も、このことを念頭に今後も挑戦していただきたい。

ビジュアルアート分野審査員代表
藪前知子(東京都美術館学芸員)



パフォーミングアーツ 総評

申請者全体の傾向として、日本の舞台芸術におけるジャンルや制作現場での既存の枠組みを刷新ないし補完することをめざす申請内容が多く見られた。また個人フェローシップでは2名までの申請が認められているが、活動を共にするアーティストユニットだけでなく、他分野で活動する協力者との共同リサーチの申請が複数あったことは新しい傾向だろう。

俳優の福原冠氏はダンサーの三橋俊平氏と共に、創作の原点となる「稽古場」に着目する。稽古場を兼ねたアトリエを持つ劇団は日本にもあるが、実演者自身による研鑽の場の必要性を訴え、NYに数多くある稽古場を訪問・調査することで、将来的な「稽古場」の共同運営を構想する。成果物としての作品ではなくプロセスの場に着目している点がユニークであり、後進育成も視野に入れた申請内容であることから採択に至った。俳優とダンサーのそれぞれの視点から得られる成果にも期待したい。

翻訳という形式の持つ暴力性とホスピタリティーに着目したユニ・ホン・シャープ氏も、活動の一部において翻訳者・通訳者である平野暁人氏を協力者として迎える。翻訳を身体と言葉を媒介することと位置付け、日本語と韓国語の翻訳/通訳史についてのアーカイヴ調査や専門家へのインタビューと、韓国社会における「癒しの身体」の観察を行うとする申請内容は、具体的かつ実現可能性が高いと考えられる。メディア横断的な制作手法に加え、申請者自身のルーツを探るリサーチにも期待している。

団体助成に選ばれたオフィスアルブは、振付家・ダンサーの北村明子氏を中心とした団体である。今回の申請では北村氏が過去のACCの助成で知り得たアーティストらと、フィリピンでのフィールドワークを予定している。アジアのアーティストの活動の場を広げ、彼らとのネットワーク作りを視野にいれた申請内容を評価した。継続的な文化交流やその発展的な活動を通して、異文化間のより深い結びつきを実現してもらいたい。

今回、ACCの選考プロセスに関わってみて、アーティストにも自身の活動を言語化する力が求められていることを改めて感じた。物価高騰の折、実現可能な予算書を書くのは申請者も大変だが、企画内容を実現可能なものにするために事務局が心を砕いていたことが印象に残っている。応募書類を書き慣れている申請者とそうでない申請者とがいるが、誰しも最初がある。ぜひ、自身の活動の幅を広げたいと考える方は、怯まずに応募してもらいたい。
今回、フェローシップとグラントに選ばれた方々は、ぜひこの機会を積極的に利用して、これからの活動に役立ててほしい。選考に関わったひとりとして、その成果を楽しみに待ちたい。

パフォーミングアーツ分野審査員代表
柴田隆子(専修大学国際コミュニケーション学部准教授)



音楽 及び 文学 総評

文学と音楽の応募者のなかから、あらかじめ書類と担当者からのヒアリングをきいたうえで、数人に候補をしぼりました。文学であるなら、創作や批評、研究、翻訳、編集といったものが、音楽であるなら、創作や演奏、批評、研究、マネージメントといったものが想定できます。ここでは、そうした職種·分野ではなく、本人の意識、モチヴェーション、具体的に何をするかというヴィジョンとその実現可能性をみたうえで、しぼりこみ、さらに、ビジュアルアートの審査会でしぼりこまれた数人の候補者とあわせ、予算上、ひとりのみを選ぶということが決められました。

本来ならば、文学と音楽のなかをあわせて、というのも、また、文学と音楽とビジュアルアートをあわせて、というのも、比較対照が容易にできることではありません。そのうえで2023年現在に海外にでて滞在することの自身への意味·強度を、年齢やジェンダーやジャンルをわきにおきながら、判断することが迫られました。候補はしぼられていましたが、短からぬ議論が交わされ、また予算配分をシミュレートし、最終的に、文学と音楽の応募者からは作曲の森円花さんに決定いたしました。

森円花さんは、列島内ですでに作品の発表のみならず、ビジュアルアートとのコラボレーションや教育的な場面でもしごとをされています。昨年惜しくも亡くなった作曲家の一柳慧さんから、渡航し、海外の音楽家や聴き手にふれることをつよく勧められ、そのことが応募の理由のひとつにも挙げられていました。一柳慧さんが十代の終わりから二十代にかけてアメリカ合衆国で学び、のちにこの奨学金で滞在していることからの推薦も背景にはあったようです。そうしたことをうけた森円花さんの「いま」の意志はかたいものでした。また、ほかの候補者が応募されていた奨学金の額とのバランスも鑑みますと、森円花を決定することに異議はないという結論に達した次第です。
森円花さんの渡航·滞在が将来的にみのり多きものでありますよう、お祈り申し上げます。

ひと言加えるとすれば、文学分野の応募がもう少し活発であってほしかったというのはあります。研究者が調査をしたり、おなじ/ちがう立場ではなししたりすることも、創作家が現地で刺激を受けることも、ともにみずからの糧になるのではとおもいます。積極的な参加をお願いしたくおもいます。

音楽 及び 文学分野審査員代表
小沼純一(早稲田大学文学学術院教授)




助成:
公益財団法人セゾン文化財団
公益社団法人企業メセナ協議会

 



 


 



一般財団法人アジアン・カルチュラル・カウンシル (ACC) 日本財団

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