シン・チャオ!(ベトナム語で「こんにちは!」)皆さん。
ようこそ、長田のベトナム・ワールドへ!


文:横堀ふみ
 


写真提供:タンロン水上人形劇場(ハノイ/ベトナム)

 

「日本に暮らすベトナム人の子どもたちにとって、ベトナムの言葉と文化、日本の言葉と文化の両方がとても大切なものなのです。長田に暮らすベトナム人の子どもたちが将来、日本とベトナムの文化をつなぐ人になってほしいと思います」このテキストは、「チャオチャオ!ベトナム水上人形劇!」の第四回目の番組で発せられた言葉です。

2002年からこれまでに至るまで、私は数多くの国際交流事業に関わってきました。初期では国境を越えた「他者」と出会い、お互いのダンス観を交換しながら、協働することは特別な機会でした。その後、徐々に国境を越えて移動することが容易になると共に、国際交流事業はさかんに行われるようになり、日常業務の一つになってきました。そんな中、足元の地域に広がる、関わり合いの少ない国際交流が気になってきたのです。ベトナム人の地域住民と日本人地域住民の狭間にある「境界」は依然として確かに存在するのです。

そして、2020年「ベトナム」と「長田」をつなぐこと出発点とし、3カ年のプログラムとして「チャオチャオ!ベトナム水上人形劇!」を立ち上げました。(ようやく…とは、足掛け5年以上にわたって、アイデアのスケッチを描き直してきたから。)何よりもこのプログラムでは、両者の「境界」を行き来できる存在を可視化することが重要でした。今回、その存在は「ベトナム水上人形劇」と「長田に暮らすベトナム人の子どもたち」。ここで冒頭のテキストにつながります。両者の文化を我が身に持ち、そのジレンマに日々揺らいでいる存在。彼らの数えきれない揺らぎが、この地域のポテンシャルに転じる未来を望みます。

さて、コロナ禍に突入し、第一回目の緊急事態宣言が発令された中で、ベトナム水上人形劇の演出家や人形使いの役者を招聘する計画を白紙に戻しました。何度も何度も考え直し、相談を重ねながら、全てオンライン・プログラムに変更することにしました。オンラインによって功を奏したのは、2020年のコロナ禍における長田の数多くの「ベトナム・コミュニティや人々」姿を、映像に切り取ることができたことでしょう。そして、ハノイのタンロン水上人形劇場との信頼関係をより強固に結ぶことができたことです。しかも、それらは、アナログな!然るべきスピードで進んでいったのでした。

しかしながら、オンラインの為の映像プログラムをつくる…という初めての試み、そしてベトナム語を全く理解しない私にとって、一人では何も手につけることができないのです。必然的にいろんな方の支えを得ることで、よりベトナム人の地域住民と日本人地域住民の両者に立脚する複雑な文脈を身をもって知ることになったことも大きな収穫の一つです。

今回、様々な場やレイヤーにちりばめられた国際交流の種。今後このプログラムが温める種も、このプログラムに関わった人が育てるものも、そして与りしれぬ誰かから芽をだすこともあるかもしれない、そのような土壌を耕すことになった一年目の「チャオチャオ!ベトナム水上人形劇!」。ご支援くださった皆さま、関わってくださった全ての皆さまに心より感謝申し上げます。

 

 

横堀ふみ(よこぼり ふみ) 
特定非営利活動法人ダンスボックス プログラム・ディレクター。神戸・新長田在住。
活動拠点とする劇場Art Theater dB神戸では、ダンスプログラムを中心に、ほぼ全ての作品/企画を滞在制作によって実施する。
2008年度ACCの助成を受け米国および東南アジアに滞在。
ベトナム人の夫をもち、一児の母でもある。
(Photo by Junpei Iwamoto)

 



会報誌「ACC Japan通信 2021年5月号」からの転載記事
P5.  PICK UP「渡航を伴わない国際交流支援プログラム」より特集記事

「ACC Japan通信 2021年5月号」PDFはこちらから。